Engadget Japan

この自律型ロボットは、両腕を使ってトマトの収穫に挑む──九州工大が開発した「Conbe」

2016-12-29 07:00:00

ロボティクスの研究を行っている大学はいくつもありますが、九州工業大学の「社会ロボット具現化センター」の取り組みは非常に先進的かつ興味深いものです。実際に人間社会の役に立つ「社会ロボット」をどのように作り上げるかに着目して研究を行っているのです。

この記事で紹介する「トマトロボット競技会」は、その研究の一環でもあります。これは、トマトをいかに早くきれいに収穫するかを自作ロボットに競わせるというもの。今回で3回目になりますが、同センターの林英治教授の研究室では、この競技会に「自律型ロボット」を製作して挑んでいます。

自律型ですから、ロボットが自分で収穫すべき赤く熟れたトマトを判別し、枝から取る作業を行えなければなりません。人間なら簡単にできますが、これをロボットに行わせるのはなかなかの難題です。

農業従事者の減少なんて話がありますが、人間が行っている作業をロボットが代替できるのであれば、その意義はとても大きなものです。この競技会は、人間の代わりができるロボットを作れるかどうかの実践の場でもあります。

気になる自律型ロボットの中身(前回大会の振り返り)

林研究室のロボットは、2015年の前回競技会で優勝を果たしています。まずこのロボットを見てみましょう。


▲前回「第二回トマトロボット競技会」での林研究室のロボット『Conbe(コンビー)』。アームが1本で、トマトの採り入れスピードはだいたい1分間に1個でした。

林教授は、ピアノの自動演奏ロボットを手掛けられ、人間の感覚・表現力をロボットが再現できるかに挑戦していらっしゃいます。その研究の成果はこのロボットにも生かされています。


▲Conbeはまずトマトがあるだいたいの場所に接近します。

林教授によれば、このロボットは、トマトに見立てたボールを使ってシミュレーションし、制作したとのこと。

  • ボールの形・色の判別に6種類
  • その認識レベルに6種類
  • 収穫のモーション(動作)に8種類

これらを組み合わせて、トマトを収穫するのだそうです。また、ロボットの行動とは「始点」と「終点」を設定して動くもの(普通ロボットを動かすには「始点」と「終点」の絶対値が必要)なのですが、このロボットにはそれがなく、自分で姿勢を修正しながら対象に向かって進んでいくようになっているのです。

興味深いのは、このロボットが時折造った人間から見ても不思議な動作をすることです。基本的なプログラムは全て人間が与えているのですが、実際に動かしてみると思いもよらない動きをすることがあるとのことで、林教授によれば「その瞬間が何よりも面白い」とのこと。自律型ロボットの中で起こっていることは、人間の行動メカニズムの解明につながっているのかもしれません。

そしていよいよ2016年大会、双腕の意外な難しさとは!?

さて本大会のロボットです。前掲のとおり2015年には採り入れるためのアームが1本だったのですが、2016年12月9日-11日に行われた今競技会に出場したロボットでは二つの腕を持つものとなっています。


▲双腕で今競技会に出場した『Conbe』。

実際にロボット製作に携わった林研究室 学際情報工学専攻 修士2年の富永歩さんにお話を伺ったところ、今回のロボットの進化ポイントは、

●トマトを採り入れるアームを二本にしたこと
●トマトを認識するための画像処理の部分

の2点だそうです。「双腕となったのは収穫のスピードを速めるため、また画像処理についてはより正確にトマト実を認識するため」とのこと。

二本の腕を同時に動かしてそれぞれがトマトを収穫すれば単純に収穫スピードは倍になりますね。また、2015年の競技会ではトマトの実が歯や茎に隠れている場合、ロボットが認識しづらい、といった弱点があり、今回のロボットではその解消を企図したのです。


▲手の平の中央部分にセンサーがあり、それで収穫すべきトマトを認識します。

富永さんによれば「双腕のコントロールが難しかった」とのことです。右腕と左腕が邪魔し合ったり、同じトマトを右腕と左腕が取りに行ったりといったことが起こったそうです。


▲第三回競技会中のConbeの様子。双腕のコントロールは思いの外難しかったようです。


▲競技会中、双腕の調整に苦心する林研究室の面々。

人間は「右腕の邪魔をしないように左腕を動かさなくちゃ」なんてことは意識せずに、自在に両腕をコントロールしていますが、ロボットにはその基本的な部分を教えなければならないわけです。果たして人間はどうやってその閾下の行動を管理しているのでしょうか? どうすればロボッにそれが可能なのでしょうか? 自律型ロボットを製作することが人間の認識・行動のメカニズムの理解につながっているというのは非常に興味深いと思いませんか?

今競技会からレギュレーションが変わり、トマトが複数固まって成っていても、それを丸ごと採り入れるのはNGとなりました。つまり1個ずつ収穫しないといけないという、実際の採り入れにより近い形になったわけです。

より優れた画像認識技術が必要になったので、富永さんによれば今回の進化でもまだ足りなかったそうです。

この第三回競技会では、林研究室の『Conbe』は残念ながら5位という結果でした。しかし、ファイナルステージに進んだ5チームのうち、自律型ロボットは林研究室の1基だけでした。人間の作業を代替する「社会ロボット」を作るという、同センターのテーマからすれば、さらに一歩を踏み出したと言えるのではないでしょうか。今年のロボットの健闘を讃え、『Conbe』には「響灘菜園賞受賞(ドリーム賞)」が贈られています。林研究室の挑戦はさらに2017年へと続きます!

●Conbe 『第三回トマトロボット競技会』Results
参加チーム32
総合5位
部門3位
響灘菜園賞

社会のニーズに応えるロボットこそが必要!

九州工業大学「社会ロボット具現化センター」では、自律型ロボットにフォーカスして研究を行っています。実は同センターの慧眼はここにあります。日本はロボティクスの分野においては世界有数の技術を持つ、といわれますが、実際に社会で役立つロボットを送り出せているかというとはなはだ疑問だからです。

例えば、自動掃除ロボット『ルンバ(Roomba)』はアメリカのiRobot社が開発したもので、その後他社から類似製品が次々と発表されました。社会ロボット具現化センターのセンター長である浦環教授は「モノづくりが得意な日本の企業がなぜこのロボットを市場に出せなかったのでしょうか」と問います。


▲九州工業大学「社会ロボット具現化センター」のセンター長である浦教授が中心となって開発された自律型ロボット。水中資源調査用の『r2D4』です。日本の排他的経済水域内のコバルトリッチクラスト層を自動探査します。ちなみに隣で泳いでいるのが浦教授です。

浦教授によれば「もっと社会で活躍する、社会に役立つロボットの開発に取り組まなければならない」とのこと。また、「できる」のと「ニーズに応える」のは別だとも。例えば、「できるロボット」が完成したとしても1000万円もコストが掛かるのであれば誰も使わないわけですし、それではニーズに応えたことにはなりません。

つまり、万能の鉄腕アトムではなく、社会のニーズごとに応えるロボットこそ目指すべきものだというわけです。また重要なのは「自律型ロボット」であることです。与えられた課題に対して、後ろで人間が指示するのではなく、ロボットが自身で考え、判断して動かなければなりません。

自律型で社会のニーズに応えるロボットを実現する、これを第一義とする同センターの活動はロボティクス分野の中でも特筆すべきものといえるでしょう。

九州工業大学「社会ロボット具現化センター」