神山監督や冲方丁氏、研究者や教授陣が「攻殻機動隊」の実現可能性を語る。攻殻シンポジウム「テーマ1:義体・ロボット」

2016/06/22 08:00

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2016年2月11日(木)に開催された「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT the AWARD」。本記事では、同イベントのなかでレポートの要望が多かった「攻殻シンポジウム」について書き起こしを掲載します。

 

登壇者は、『攻殻機動隊S.A.C(STAND ALONE COMPLX)』シリーズ監督・脚本を担当した映画監督の神山健治氏、「攻殻機動隊ARISE」シリーズ構成・脚本を担当した小説家の冲方丁氏、国立研究開発法人情報通信研究機構の井上大介室長、産業技術組合研究所の梶田秀司氏、東京大学教授の稲見昌彦先生、筑波大学教授の岩田洋夫先生、神戸大学教授の塚本昌彦先生、九州大学名誉教授の村上和彰先生、はこだて未来大学教授の松原仁先生。モデレーターは、A.T.カーニー日本法人会長の梅澤高明氏。

 

攻殻シンポジウムの最初のテーマは「義体・ロボット」。

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梅澤:さっそくはじめたいと思います。テーマいくつかありますが、最初のテーマは「義体」です。では映像をお願いします。

 

神山:攻殻機動隊シリーズの中では、義体が出てきましたけれども。ロボットとアンドロイド、2種類のロボットが出てたと思います。人間の肉体の四肢を強化するとか、人間の身体拡張としての義体。あとは、アンドロイド、脳がない、人間ではないロボットですよね。自分で思考して動いてるロボット。あともうひとつありました、タチコマという支援型のロボットの3種類ですね。

 

梅澤:絵で表現するときに、これはロボット、これは中に人が入っている、人間の形をしてないけど人が入ってるものなどの表現ってどうされていたんですか?

 

神山:すごくむずかしかったですよね。生身の人間の動きと、義体化してる人間の動きっていうのもあるし。さらに、感情がないはずのロボット。その表現をアニメーションで表現するのはほぼ不可能なんですけど。

 

たとえば、主人公である草薙素子は瞬きをあまりしないようにすることでロボットっぽさを出すとか。あと、普通の人間ではできない超人的な動きっていうのをさせるとか。そういったことで差別化ははかってましたね。

 

冲方:脚本上だと、コミュニケーション能力があるロボットって、結局人間扱いになってきちゃうんですよね。タチコマ、ロジコマとか。タチコマ、ロジコマは、実は脚本的に一番めんどくさかったんですよ。

 

神山:一番嘘の部分ですからね。

 

冲方:どうしようと思って。ロボットのはずなのに、人間として扱わなきゃいけないわりにいっぱいいるので。

 

4台いるうちの誰に感情移入してんのかよくわかんなくなったりとか。これは今現実に近くなってくると、ロジコマ、タチコマの描写は変わってくるんじゃないかなと思います。

 

神山:逆に今だと、もっとロボットっぽくしてあげないと。みなさんは、たとえばiPhoneに実装されてるSiriとかと会話をされてるので、それを想像すると、もうちょっとタチコマとかが稚拙な会話の仕方とかをしたほうがもしかしたら今の人たちにとってはそれがリアルに感じるのかな、とかは思いますよね。

 

冲方:AIは自動的に学習していくんだっていうのを説明しなくてよくなってすごい助かりましたね、脚本的に。「AIって何?」ってところから今までずっと説明していたので。

 

神山:あと一番困ったのは、義体化してる人と、普通の人の差と、アンドロイドですね。だから、さっき芸者が射殺されてる絵がありましたけど、芸者のロボットっておそらく一番接客ロボとしては高性能なロボットじゃないといけないわけですよね。

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ロボットであることを楽しむというような趣味の方であれば、おそらく稚拙な動きをすることを喜んでくれるのかもしれないですけど、そうではなくて、人間じゃない芸者のロボットで、どういうサービスを楽しむのかっていう、物語の中では違ったフリーキーな楽しみ方をしてるシーンが出てくるんです。そういう表現をしていかないと、なかなか、当時はまだロボットと人間の差をアニメーションの中で描いていくというのはすごくむずかしかったですよね。

 

梅澤:神山さんのお話にも出た、サービスロボットって、今ロボット産業の中でも世界的に注目されてる分野でもあるんですよね。ちょっとここで梶田さんに聞きたいのですが、世界のロボット開発の現状、あるいは、ロボット産業が今どんなほうに動いていこうとしているのか、そのあたりをお話しいただけますか。

 

梶田:僕がここに呼んでいただけたひとつの理由。去年、アメリカのカリフォルニアで開催された、DARPAロボティクス・チャレンジという大会に、我々ロボット持っていって戦ってきました。結論的にいうと、結果惨敗といわれることになっちゃったんですけど。

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何が起こったかっていうと、世界中から23チームがそれぞれロボットをつくって参戦して、その中で、我々チームは10位だったんです。23チーム中の10位ということで。日本のロボットが世界一と思われてる一般の方にはかなりショックだったみたいで。

 

僕らはけっこう頑張ったつもりなんですけど、なかなか苦戦しました。DARPAロボティクス・チャレンジというのは、福島第一原発のときに、ロボットが直後に役に立たなかったことを大きく反省して、それに類した状況でいかに活躍できるロボットができるかという大会だったんですけれども。

 

結果的にいうと、現在の最先端のロボットですら、まだ2011年の3月11日に福島第一原発で起こったような状況には対応できる状況にはない。

 

僕の目から見ると、攻殻機動隊のロボットっていうのはやっぱりいまだに夢みたいなすごいテクノロジーで、現実が追いついていないなと。そこに向けていろいろ頑張っているんですけど。少なくとも僕らのロボットは、ロボット大会の最中に転んじゃって、そのあと二度と復帰できなかったので、攻殻機動隊みたいにバタバタ転んでも立ち上がって、再チャレンジできるようなロボットにしてかなきゃいけないっていうのが今、個人的な思いです。

 

梅澤:義体のことを稲見さんにお伺いしたいんですけど。超人スポーツの共同代表もされていて、遠藤さんのXiborgみたいな会社も出てきて、けっこう義体っていう分野はリアライズ進んできてるなって感覚ですけど、どうですか?

 

稲見:まだはじまったばかりと申しましょうか。でも、義足とかがだんだん人を超えはじめてるというところがある。それなりに限定された状況においては人を超えはじめるような、能力として人を超えはじめてるところはありうると思いますね。

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ただ一方で、義体のむずかしいところは何かというと、生物との一番の違いは、先ほど岩田先生のお話で、展示してるロボットがどんどん壊れちゃった話があると思うんですけども、人って同じ動き何回もすれば鍛えられるわけですよね。超開拓といわれてるんですけれども。

 

でも、機械は使えば使うほど壊れちゃうんですね。そこが一番違うところで、苦労してるところなんですよね。そこが改善されていくと、どうやって改善すればいいかわからないですけれど、いろいろと応用範囲は変わってくると思います。

 

神山:人間そっくりなロボットっていうのはどうなんでしょうか? むしろ、義足とかで、パラリンピックとかああいったものだと、決して人間の足そっくりではないけれども、その競技に合わせた形での義足とかが出てきてるわけですけど。また反対に、物語の中ではわりとポピュラーに描かれて、人間と見分けのつかないロボットみたいなのは、今どういった感じなんでしょう?

 

梶田:うちの研究所で7年前につくったロボットで、日本人の女性の平均的な体型をそのまま再現できるような女性型のロボット、「HRP-4C」という、ニックネーム「未夢」というロボットをつくりました。いろいろ現状の要素技術が足りなくて、モーターが大きすぎて、からだは女性なんだけど、手は男性ぐらい大きいロボットになっちゃったり、そういう苦労をしてます。

 

神山:そうすると、かならずしも人間の形を目指すという方向には今後ロボットはいかないかもしれないってこともありますかね?

 

梶田:いえ、人間とそっくりにしたいっていうのはいろんな方面の要望としてあるので。僕は確実にそっちの方向にはいくと思います。さっきの芸者のようなことがちゃんとできれば、すばらしいと思います。

 

稲見:人を相手にするロボットは、やはり人型のほうがコミュニケーションをとりやすいという話だと思います。

 

梅澤:数年前まで、ヒューマノイド型のロボット、日本はそこにずっと注力してきたんだけど、産業としてそこじゃないだろうっていって、国策でけっこう軽視された時期があって。シャフトがグーグルに買収されるみたいなショックも起こって。もう1回光が当たりはじめてる、そんな感じですかね。

 

梶田:人型ロボットに関しては、今日本の外がすごくアクティブで。アメリカとヨーロッパの研究者、あと韓国もすごく頑張っていて、彼らはいい研究をしてます。

 

個人的には日本がヒューマノイドのある意味先端いってたのが、世界に追い上げをくらって、ちょっと追い抜かれちゃったというのが正直な現状です。

 

梅澤:コンテンツの側からすると、人型のロボットというのはものすごくいろんなキャラクターづけをしやすくて、興味深いテーマなわけですね。

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神山:物語をつくるということにおいてはまさにそうだと思いますね。

 

冲方:ただ、自分の肉体を交換可能にすると、なんでこの身体にしたんだろうっていうのがキャラクターに関わってくるので、どうしても社会的な背景とかも考えなきゃいけなくなってきて。今まではだいぶ嘘でっていうか、こういうもんだっていう強引な理屈で押し通してたところが、だんだん理屈づけが必要になってきちゃう。

 

神山:あと作品をつくったときには思わなかったことなんですけども、人の形をしてないっていうことに価値を見出すっていうのも最近出てきたなと思っていて。異形の姿をしていることが決してマイナスではないんだという、それもこの10年から15年の間にすごく変わってきたことなのかなというふうに感じてますね。

 

梅澤:それはもしかして、タチコマがけ後押ししたんですかね?

 

神山:タチコマもですし、たとえば手だけが人間の形をしてない、パワーアップした腕をつけてるとかっていうのが、果たしていいんだろうか、実社会の中にいてこれは差別の対象にならないか? とか、そういうふうな道徳観みたいなところから、人間にそっくりなほうがいいんじゃないかっていうふうに思ってたんですけども。

 

3Dプリンターとかでかっこいい義手をつくったら、そっちのほうがかっこいいんじゃないかみたいな、そういう発想が出てきたというのは、現実と物語で差が出てきた部分かなと思ってます。

 

梅澤:DMM.makeの会社の中でも、handiiiっていう筋電義手、あれかなりデザイン的にイケてます。そういう話ですね。今、神山さんがおっしゃった、まさに多様な人、全身義体の人、部分義体の人、もしかしたらバイオロイドも、多様な人がいて、それからロボットがいて。遠隔操作義体もいるかもしれない。という社会がきたとしたら、何に注目されますか? 何がこれから大事になってくると思いますか?

 

神山:そうなったときに、人間性という部分を一番大事にしていくのか、それともそれも放棄した上で進歩をとっていくのかっていうのが、次にSFの作品とかをつくっているときに、僕らが思う部分に入ってきたのかなという気がしますね。

 

だから、道徳観みたいなものっていうのが最終的な立脚点としてあれば、科学の進歩っていうことにも間違いがないんだっていうふうな考え方で僕らは作品をつくってたところがあるんですけど。もうその先がきてるんじゃないか? というか、ヒューマニズムっていうことにかならずしも立脚点をおかなくてもよくなってしまう、そういう時代ももしかしたらもうきてるのかなという気がしてます。

 

梅澤:冲方さんはどうですか?

 

冲方:おっしゃるとおり、テクノロジーが倫理を追い越してしまうか否かっていうのは非常に興味深いところでありますね。オリンピック、パラリンピックの話が先ほどありましたけれども。あれが逆転したらどうなるのか。つまり、パラリンピックのほうが、数字がよくなってしまったらどうするのかと。

 

そうした場合、人はどっちに注目するのか。あるいはそれは違うものとして見るのか、同じものとして見るのか。義足のプロゴルファーがプロとして認められるか否かみたいな議論がたぶん活発になっていって、その過程で、枠組み自体をどうしていくのかってことにもなってくると思うんですよね。オリンピックとパラリンピックは将来合体するのか、そのまま分かれてやっていくのかみたいな。

 

梅澤:まさに超人スポーツの出番ですね。

 

稲見:パラリンピックのほうが記録としては超えていくんじゃないかというのは、2020年からどんどん起きはじめるといわれています。そのときに、機械の身体がほしくなってしまうとか、そういう人が出てきたときどうするのかというところも。

 

冲方:こわいですよね。健康なのに変えたいって思ったときに、お医者さんとかにそういう依頼がきたときに、お医者さんは倫理的にやっていいのかどうかっていうのはありますよね。

 

梅澤:義体、義肢っていうのは、ARISEシリーズにも出てきてました。

 

冲方:義足の方とかのお話を聞くと、事故でまひを患ってしまった足は、そのままだと寝たきりとか車いすですけど、切り落として義足にすれば歩けるっていう。そうした場合、どっちを選択すべきかっていう問題が出てきますよね。

 

梅澤:話は尽きないんですけど、次のテーマに移りたいと思います。

テーマ2「電脳」に続く