攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 発表会レポート 「そこまで来た、攻殻機動隊の世界」(動画あり)

2015/07/06 00:00

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2015年6月12日、東京。
この日は朝から梅雨空特有の灰色の雲が東京の空を覆っていたが、時折太陽の光もチラリと顔を覗かせる。

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2014年11月に起動した「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」は、その存在をチラチラと覗かせつつも、具体的な全貌についてはなかなか明らかにされてこなかった。この半年近く、コアな攻殻ファンや攻殻の世界観をリスペクトする研究者、そしてメディアの間で、攻殻機動隊 REALIZE PROJECTの全体像が話題となっていたが、いよいよ今日、その姿が公開されることとなる。六本木の「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT発表会」の会場は、テレビ、新聞、雑誌、ウェブメディアの報道記者が大勢詰め掛け、熱い期待と熱気に包まれていた。

攻殻機動隊の世界観は、百年後も生き続ける

午後3時、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT発表会がスタート。6月20日公開の『攻殻機動隊 新劇場版』のムービーが流される中、発表会の司会進行を務める、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT事務局 顧問/エバンジェリストの西村真里子氏(株式会社HEART CATCH 代表取締役CEO)が登場した。

 

発表会は第一部・第二部・第三部の3部制。西村氏は、「第一部では本プロジェクト全体の説明、第二部では攻殻機動隊のクリエイターと研究者による『フィクションとリアルがどこまで融合するか』をテーマにしたREALIZE 公開ブレスト、第三部は攻殻機動隊の世界をリアライズ(実現)する研究成果を体感する場で、長い時間になりますが、攻殻の世界観をリアルに感じられる密度の濃いイベントになっています」と説明した。

 

続いて登場したのは、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 実行行委員会委員長の石井光久氏(株式会社プロダクション・アイジー代表取締役社長)。

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石井氏は、「作品が描く2029年まであと14年です」と力強く述べ、本プロジェクトの目標について、「いまこの瞬間、攻殻で描かれている世界はどこまで実現できているのか。そしてその世界が、現実のテクノロジーによってどれほど拡張されていくのか。この2つをリアライズ=現実化することで、最終的に日本の科学技術の発展に貢献していくことが、本プロジェクトの目指す方向です」と語り、本プロジェクトが産・学・官の連携の下、中長期にわたって続けていくものであることを説明した。

 

「士郎正宗先生が創った攻殻機動隊の思想は、五十年後、百年後も、ずっと生き続けるはずです」(同)と、原作へのリスペクトも。

 

これが攻殻機動隊 REALIZE PROJECTの全容だ!

ここでふたたび、司会の西村氏にバトンタッチ。攻殻機動隊 REALIZE PROJECTの全体像について、西村氏が「攻殻機動隊 REALIZE PROJECTは4つの事業で成り立っています」と説明を始めた。「事業」とは銘打っているが、位置づけとしては「プロジェクト」に近い。つまり、収益化が主ではなく、「社会への還元」「起業・開発支援」など、社会的な意義を主としているのだ。順に見ていこう。

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攻殻機動隊 REALIZE PROJECT事業領域

 

第一は「メディア事業」。具体的には、攻殻の世界観に近いものや、実現に向けた研究や製品、サービスなどの最新動向ニュースを集め、攻殻の世界観の実現度を評価するもの。そのテーマは、攻殻機動隊を構成する5つの要素「電脳(Cyber Brain)」「人工知能(AI)」「義体(Cyborg)」「機械(Robot)」「都市(Smart City)」だ。
ニュースは、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT実行委員会の独自取材による記事や、協力メディアの取材・報道を通じ、記事を収集・公開してキュレーションする。最終的には、読者や識者が実現度を評価することで、攻殻の描く未来への距離感をリアライズするものだ。

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第二は「インキュベーション事業」。これは攻殻機動隊の世界につながる研究開発やスタートアップを支援するもので、攻殻の世界をより現実へリアライズする取り組みとなる。具体的には、攻殻機動隊の世界を構成する3つの要素「電脳(Cyber Brain)・人工知能(AI)」「義体(Cyborg)」「機械(Robot)」に関し、これらのテーマを研究開発している日本国内の企業や団体、個人を、コンテスト・ハッカソンを通じて募集し、支援・援助を行うものだ。

 

第三は「AWARD事業」。メディア事業の攻殻関連ニュースや、インキュベーション事業のコンテスト・ハッカソン参加者に対し、表彰を行うもの。特にコンテスト・ハッカソンの表彰者には、事務局や本プロジェクト協賛各社からの起業支援、資金援助といったチャンスが与えられる。リアライズを加速する事業だ。

 

第四は、事務局独自の「プロジェクト・関連事業」で、これは大きく2つの方向がある。1つは、日本初のフォトグラメトリー専用スタジオ「AVATTA」の事業化、もう1つは攻殻機動隊で描かれている世界観やテクノロジーの関係性を可視化する「《攻殻グラフ》攻殻世界の可視化」だ。

 

草薙素子のリアル3Dから、胸の鼓動までをリアライズ

これで攻殻機動隊 REALIZE PROJECTの全体像は分かったが、集まった報道陣の中には、「まだ、良く分からない」と首をかしげる記者もいた。たとえば「フォトグラメトリー」というのも聞きなれないことばで、攻殻機動隊の世界とどう関わるのか、分かりにくい。

 

このフォトグラメトリーの事業を監修しているのが、写真家の桐島ローランド氏だ。壇上に現れた桐島氏は、昨年シリコンバレーに視察に訪れた時、数年前より米国で注目されているフォトグラメトリーを見て、帰国後すぐにこの新しい技術を実現する専用スタジオ「AVATTA」を立ち上げた、と説明する。

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フォトグラメトリーとは、複数の視点から同時撮影した写真画像データを基に3Dモデルを作成する技術で、従来のレーザースキャナーや赤外線ハンドスキャナーを使ったキャプチャリングより高精度でリアリティのある3Dモデルを作れるというもの。たとえばゲームキャラの場合、3Dモデルを作り、さらに人間の皮膚感に近いテクスチャーマップも開発するのは数カ月もの工数が必要だが、フォトグラメトリーは「もともとが写真データなので、フォトグラフィックなキャラクターが10日前後で開発できます」(桐島氏)という。一度写真の撮影データを蓄積しておけば、リアルな3Dキャラを作り出せるため、「(データがあれば)亡くなった俳優や女優を蘇らせることも可能」(桐島氏)という。

 

桐島氏が監修したフォトグラメトリー専用スタジオAVATTAは、なんと84台の一眼レフカメラが、対象となるモデルをぐるっと球面で取り囲むように配置されている。今回は、有馬綾香さんと、うしじまいい肉さんの写真データを基に、まるで生きているような3D草薙素子を作り、ウェブ上(http://3dmotoko.jp/)で公開した。これはリアルな人間によるフィクションの草薙素子を、好きなように動かせるサイトで、リアルとフィクションが融合した作品だ。さらにこの企画では、素子のリアルな生体を感じられるよう、『攻殻機動隊 新劇場版』公開中、うしじまいい肉さんがApple Watchを装着して自分の心拍データをサイトに送信している。リアルな草薙素子の胸の鼓動をリアライズすることで、攻殻キャラの現実感が一層強くなる。

 

攻殻世界のリアライズ度を測定・可視化するプロジェクト

続いて登場したのは、攻殻世界と、その実現度の可視化に取り組む、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 事務局 技術顧問・国際公認投資アナリスト 庄司真史氏(株式会社ライブ・アース 代表取締役社長)だ。

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庄司氏は、学生時代は宇宙関連研究に携わるも、東京大学大学院卒業後は一転して外資系投資企業に入社。その後投資会社の設立を経て、2014年には地球上のさまざまな動きを可視化するテクノロジーを開発する株式会社ライブ・アースを設立した。この「技術」と「投資」の2分野に関わってきた経歴を背景に、「作品中に登場した技術がどれだけ現実化しているかを見て支援していきます」(庄司氏)という。なお、この可視化プロジェクトに関しては、技術統括顧問・情報工学として清洲正勝氏(テクノロジ代表)、技術顧問・上席研究員に小泉貴奧氏(日本シンギュラリティ協会会長他)も参加している。

 

さて問題は、攻殻世界の現実度をどのように判断するかということ。そこで庄司氏らが取り組んでいるのが、「攻殻グラフ」「攻殻係数」の開発だ。攻殻グラフは、知識表現の1つである「セマンティック・ネットワーク」を利用して、攻殻機動隊の要素技術や世界観の一つひとつをnode(ノード)という円で表し、その間を線でつないでいく。実は、攻殻機動隊 REALIZE PROJECTで要素技術として取り上げている「電脳」「人工知能」「義体」「機械」「都市」の5要素は、この攻殻グラフから可視化されたものだ。

 

庄司氏は「この取り組みにより、攻殻機動隊の技術世界が整理されます。整理された単語は『辞書』として、またここで描かれたネットワーク自体は、検索アルゴリズムへと昇華させることができるでしょう。将来的には、このグラフが動的に動いていくことを考えています」と語る。

 

では「攻殻係数」とは何か。これは、ひとことでいえば「攻殻っぽさ」を表す指標のこと。基となるのは、REALIZE PROJECT編集部の独自取材やキュレーションした記事について、本プロジェクトのウェブサイトにボタンを配置し、記事を読んだ読者が「攻殻っぽい」と判断したものについてボタンを教えもらう。
こうして集まった評価の高い記事に対し、改めて技術専門家やメディア、事務局スタッフが、作品要素の再現性を評価し、係数化する。さまざまな専門家がそれぞれの立場から「攻殻度」「期待度」「欲求度」「完成度」を精査することで客観性を保つという。この攻殻係数は、アワード事業など技術選定にも応用していく考えだ。

 

もう1つ、可視化を促進するツールとして、庄司氏が代表を務めるライブ・アース社で開発した「LiVEARTH」がある。LiVEEARTHは、いま地球上で流れているさまざまな情報を、リアルタイムにウェブにある3D地球儀の上で再現する技術で、「インフォジオグラフィック」と呼ばれる新しい研究分野に属する技術だ。発表会では、攻殻の要素技術である「機械(Robot)」を例に、経済産業省が発表している「世界の産業用ロボットの取引額」をベースに、世界のロボットの開発・利用状況を可視化した。このLiVEEARTHを利用すれば、攻殻の世界がワールドワイドでどこまで実現しているかが分かる。

 

リアライズにスピード感をもたらすコンテスト・ハッカソン

攻殻機動隊 REALIZE PROJECTの事業の中でも、より具体的な「リアライズ」をもたらすのが、インキュベーション事業だ。これは攻殻機動隊の世界をテーマにしたコンテスト・ハッカソンの開催により、攻殻世界を実現するテクノロジー研究を募り、ビジネス化を支援する取り組みとなる。

 

このコンテスト・ハッカソンのアドバイザーを務めるのが、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT実行委員会 事務局 エグゼクティブ・スーパーバイザーの秋元信行氏(株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 取締役副社長)だ。秋元氏は「いろいろな企業が『20xx年ビジョン』などとうい未来構想を描くが、この攻殻機動隊で描かれている世界こそが、まさに未来ビジョンだと思います。いうなれば攻殻機動隊は、日本を代表するテクノロジーマップだと思います」という見方を示し、続けて「ウェアラブル、IoT(Internet of Things)、AIなどのいまの技術は、攻殻機動隊を追いかけています。いわば、現実が攻殻の世界を追いかけている。それを真剣にリアライズしていくことが、このプロジェクトの意義であり、インキュベーション事業はそのスピードを加速するものだと考えています」(秋元氏)という。

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具体的にどう進めるのか、秋元氏に続いて現れた、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 事務局 統括顧問 武藤博昭氏(コモンズ代表/プロデューサー)が、コンテスト・ハッカソンとAWARD事業について説明を行った。

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「AWARDに関しては、2つの部門を設けています。1つは攻殻機動隊らしい研究・開発を行う国内企業や団体・個人の活動を1年に一度表彰する『攻殻NEWS部門』です。これは、先ほど話が出たように、読者の評価に加え、専門家や事務局などが独自の評価軸で内容を精査した攻殻係数を利用し、月間で『Monthly of REALIZE』として可視化するもの。この中から、優れた研究を表彰するものです。

 

もう1つは、攻殻機動隊 REALIZE PROJECTが主催するコンテスト・ハッカソンです。これは「電脳・人工知能」「義体・ロボット」「都市」の3テーマについて研究している日本国内の企業や団体、個人を募集して、起業化や研究開発を支援するもので、3つのプログラムがあります。第一に、個人を対象にしたハッカソン『Hack the REALIZE』、第二にチームや団体での応募を受け付けるコンテスト『Contest for the REALIZE』、そして第三に起業家向けの『Pitch to the REALIZE』という3つのコンテスト・ハッカソンで、攻殻テクノロジーの迅速なリアライズを支援します」(武藤氏)。

 

また、作品の舞台となる東京・福岡・神戸と、「電脳・人工知能」「義体・ロボット」「都市」という3都市・3テーマを連携させた取り組みも考えており、いずれも詳細が固まった2015年7月以降で詳しい要項を発表するという。なお、福岡と神戸とは、攻殻機動隊25周年でタイアップを行っており、こうした都市でのイベント開催も視野に入れているそうだ。

 

さらに武藤氏は、攻殻世界のリアライズ化に関し、「国内大手企業が持つ休眠特許にも注目しています」と打ち明ける。「特許や権利は、いまや『守る時代から活かす時代へ』と変わってきました。そんな企業の特許・技術と、開発に携わった技術者の方や開発者の方から賛同を得て、モノづくりを促す自治体や民間企業、大学や研究機関と連携し、最新の技術や優れた技術、研究環境を付与するコンテスト・ハッカソンを提供したいと考えています」(武藤氏)。

 

攻殻世界の実現をスピードアップする事業なので、今後のスケジュールはほぼ決まっている。詳細を7月に発表した後、8月には個人や団体、企業の募集を開始、10〜11月中旬にかけてはコンテスト・ハッカソンを開催して、11月中旬から2015年末までは審査、ベンチャーキャピタルとのマッチングを行い、2016年2月にはAWARDを開催する予定だという。

 

武藤氏は最後に「最初に物語があり、テクノロジーは夢を見ます。テクノロジーの種(シーズ)があって、物語はより面白くなります。2029年の攻殻機動隊の世界は、そう遠くありません」と述べ、第一部を締めくくった。

 

第一部と第二部の間には、有馬綾香さん、うしじまいい肉さんが扮した草薙素子と、バトーのコスプレイヤーを交えたフォトセッションを開催。まるで作品から抜け出たような美しい2人の草薙素子とバトー、それに攻殻世界のリアライズ化を目指す事務局のキーマンが並び、攻殻機動隊のキャラと現実の人間が融合した攻殻世界を創り上げた。

 

<第2部・第3部>

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(写真後方左から)司会の西村氏、神山健治監督、冲方丁氏、稲見昌彦教授、南澤孝太郎准教授

 

公開ブレスト–ゴーストにとって義体とは何か?

16時からは、『攻殻機動隊』の世界を表現してきたクリエイター2名の「ミスター攻殻」と、攻殻機動隊にインスパイアされた研究活動を展開する研究者「ドクター攻殻」2名によるトークイベント「REALIZE 公開ブレスト」がスタート。ミスター攻殻には、もはやレジェンドとなっている『攻殻機動隊S.A.C(STAND ALONE COMPLX)』シリーズ監督・脚本を担当した映画監督の神山健治氏と、『攻殻機動隊ARISE』と、2015年6月20日に公開される『攻殻機動隊 新劇場版』の脚本を執筆した小説家の冲方丁氏。対するドクター攻殻は、攻殻機動隊の世界をリスペクトし、本プロジェクトにも参加している慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科の稲見昌彦教授、そして南澤孝太郎准教授の2名だ。テーマは「義体(Cyborg)、ロボット(Robot)」「電脳(Cyber Brain)、人工知能(AI)」「都市(Smart City)」の3点だ。

 

神山監督は、『攻殻機動隊S.A.C.』において、「自分の身体に物理的につながった状態で、身体を拡張するテクノロジーとして「義体」、自分の身体から離れた場所で遠隔操作する義体、もしくはAIによって自律的に動くテクノロジーを「ロボット」と定義し、この定義に基づいて表現したという。稲見教授も、「その定義は、研究者の視点から見ても正しいと思う」と、太鼓判を押す。

 

攻殻機動隊シリーズでは、人間社会の中でロボットや義体が違和感なく共存している。外見上は人間と見分けがつかない義体も、AIが搭載されて会話ができるロボット(タチコマやロジコマ)も、同じように“生きている”世界だ。『攻殻機動隊ARISE』では、義体が食事や恋愛を楽しむシーンも登場する。そんな世界は、実現できるのか。

 

これに対し神山監督は、実は10年以上前から「物語で描いた世界とは異なる、想像もしなかった人間とロボットの対立が生まれるかもしれない」との思いを抱いていたことを打ち明ける。冲方氏も、「ずらっと並べられたロボットは年も取らず衰えず、疲れることすら知らない。これこそロボットの有用性だけど、人間からすると、そこに嫌悪感や恐怖を感じると思う」と応じた。

 

そんな義体が、役に立たないはずの食事や恋愛に興じるのは何のためなのか。南澤准教授は、「食事や恋愛は、むしろ人間としての生きがいのため、社会とのかかわりを持つために必要な行為。義体によって長く生きるようになると、逆に生きる意味をどう見出すかが重要になる。ゴーストさえあれば人間としての存在は可能なはずだが、ほかの人々や世界とのインターフェイスとなる身体(義体)を得たことで、その義体を通じて人間らしさや生きがいを得ようとしていると思う」と述べた。

 

ということは、ゴーストがもともと人間を必要とするプログラムを持っているのだろうか? 神山氏は、司会の西村氏から向けられたこの問いに対し、「それは肉体を捨てないと分からない世界。分からないが、肉体と精神は不可分だと信じたい」と述べた。

 

ほかの生命体にない強みを持つAI、進化する都市

さて、攻殻機動隊「らしさ」の象徴といえば、「電脳(Cyber Brain)、人工知能(AI)」が挙げられる。かつて作品中は、電脳世界と現実世界、AIと現実世界のように、明確に表現を分けていたが、いまや電脳という概念は当たり前のように浸透し、ましてAIを知らない視聴者は、ほとんどいない状態だ。

 

南澤准教授は、「AIも、世界とかかわるための身体が必要」とし、『攻殻機動隊』シリーズに描かれているロジコマやタチコマに注目。IBMが提供するコグニティブ・テクノロジー「IBM Watson」についても、「次の段階は身体を持つことで、新たな成長を遂げる可能性がある」と提言した。

 

また稲見教授は、AIが持っている、今までの生命体にない強みとして「経験を共有できること」を指摘。人間は、ほかの人間の経験を自分自身のように共有できないが、ロジコマやタチコマは1人(1台?)の経験を、ネットワークを介して瞬時に共有できる。「自分ひとりの経験しか持てない人間を、あっという間に超えてしまうかも」と述べ、続けて「AIとIoTがつながったとき、その真価が発揮されるのではないか」という未来を示した。

 

そんな電脳・人工知能や、義体が人間と「生きる」都市はどのようなものなのか。パッと思い浮かぶのは、「どんなエネルギーを、どのように供給しているのか」という疑問だ。20世紀の車社会では、都市に点在しているガスステーションが、エネルギーの供給を担っているが、電脳や義体が飛び交う都市では、どのような姿になるのだろう?

 

稲見教授、南澤准教授は共に「エネルギーの形態、供給法は、十分ディスカッションすべきテーマ」としつつ、考えられる可能性を示した。たとえば、米テスラ社が発表した家庭用蓄電池(家庭で使う電力をまかなえる蓄電池)のように、エネルギーが分散型になるというのが、まずひとつ。稲見教授は、「情報と、情報を処理するエネルギー一体型のハード開発が必要になるかも」と述べ、攻殻機動隊の世界でロボットやサイボーグの重量が重い理由について、「ほとんどがバッテリーの重さなのでは」と分析した。これ以外にも、「磁気共鳴を利用した充電」「都市の地面そのものが給電機能を持つ」といったアイディアが出た。

 

テレイグジスタンスで、草薙素子の電脳ログインを疑似体験

余談だが、ミスター攻殻であるクリエイターの2人でも「ノーマーク」だったというリアルなテクノロジーについても言及があった。ノーマークというより、「SFの世界から見て、こんなに普及すると思っていなかった」という方が正しいが、その技術とは一体何か。

 

「ドローン」と「ルンバ」だ。

 

実は『攻殻機動隊S.A.C.』の時は、パイロットを載せない空軍用飛行機が登場するが、これは現在注目されているドローンとは異なる。神山監督は「こんなに普及するとは思わず、攻殻機動隊でも描いていなかった。盲点だった」と語る。冲方氏は、「ドローンを攻殻のストーリーに絡めるどころか、僕はルンバにすらショックを受けた身。SF的には古いガジェットだが、家庭用ロボットとしてここまで普及するとは」と、現実世界の方に驚きを隠せない様子だった。

 

公開ブレスト終了後は、10分間のフォトセッションタイム。
17時から始まった第3部は、会場に並べられた攻殻世界のテクノロジーの数々など、展示物のデモンストレーションと、軽食を交えた歓談タイム。

 

人気は、草薙素子のような電脳世界へのログインを体感できる「テレイグジスタンス」だ。これは慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科と、南澤准教授が研究している技術で、遠隔地にあるロボットに自分の意識をログインさせて操作することを目指している。会場には、HMDと離れた場所に置いたカメラとをネットワークでつなぎ、自分の目に映る視界が、カメラの視界となるデモシステムが展示された。

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テレイグジスタンス

筆者もこのテレイグジスタンスを体験してみたが、いきなり自分の視点が「飛ぶ」ので、感覚としては、いきなり幽体離脱したような気がした。カメラが自分の姿を捉えると、離れたところにいる「自分」が見える。確かに「ここ」にいるはずなのに、目の前に映っている「自分」の姿に、「ここ」にいる感覚がなくなってしまう、なんとも不思議な体験……。

 

そのとき。

 

「自分のゴーストに従え」
……どこかで草薙素子の声が聞こえた。

(文/岩崎 史絵)