「ゴーストと身体の分離というのは工学的には可能です」【特別対談】稲見昌彦×I.G 石川光久が攻殻機動隊を語る(2/4)

2015/06/12 00:04

日本を代表する企業、大学の研究開発者、公共機関など、産学官が一体となって、「攻殻機動隊」の世界をリアルに作ろうという壮大なプロジェクト「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」。いよいよ本格始動する攻殻機動隊 REALIZE PROJECTにあわせ、対談連載をスタートします。第1回目の対談は、「攻殻機動隊にヒントを得て光学迷彩を開発した」という稲見昌彦氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)と、株式会社プロダクション・アイジー 代表取締役社長 石川光久氏。お二人の対談は、攻殻機動隊の世界の実現可能性や、原作者・士郎正宗氏についてなど多岐に渡りました。

2029年まであと14年…攻殻は古くなるのか?

石川光久氏(以下、石川):攻殻機動隊の舞台は2029年という設定なんですが、現実が2029年を越えてしまったら、攻殻は「古い話」になっちゃうのか、そのまま進化していくのか。これって、稲見さんはどう思われますか?

 

稲見昌彦氏(以下、稲見):描かれている方向に世の中が進むことはあると思うんですけれども、時代が全部追い付くというのはないんじゃないですかね。義体は進んでいくかも知れないですが、医療が関わる業界になると10年20年単位で遅くなってしまうのでババッと進むことはないかもしれません。

 

石川:これ、士郎正宗さんがおっしゃっていたんですけど、「人間ってどういうわけか、振り子のように行ったら必ず戻る習性がある」と。だから、「進歩に対してどんどん保守的になっていくから、現実はイメージした未来よりもそこまで進まないんじゃないか」って。

電脳の世界も、医学的制約や法律上の問題で人間の被験者を立てた研究ができなくなるんじゃないかと思ってます。実験対象者自体が限られちゃったり…進歩ってなかなか難しいなぁ。

 

稲見:耳の不自由なハッカーが、自身が装着していると声が聴こえるようになる人工内耳をハックして、声だけではなく超音波も信号に変換するようにしてみたら、もはや我々が聴こえない領域の音まで聞こえるようになり、かえって超人になってしまったという話がドイツであったそうです。行ったり来たりでこれ以上は無理かもしれないというところがありつつも、このような形で突破してしまうこともあるかもしれません。しかもカジュアルなところであるかもしれないという気がしています。

私は振り子というよりは螺旋階段かなと思っていて。螺旋階段も横から見ると行ったり来たりしてるわけですよ。その代わりちゃんと前には進んでいる。技術とイマジネーションの限界は振り子のようではあるんですけど、一周した時に少し上に上がっているところがあるのかなと感じます。

 

石川:発想が、やっぱり科学者だなぁ。

 

稲見:例えばAIがブームになっていますが、これって3回目くらいのブームなんですね。AIにしてもロボットやバーチャルリアリティーにしても、その時の技術でできる一通りのことをやり終えると、一旦ブームが収束するんですね。ただコンセプトは残るんですよ。そして、ブームをみてすごいなと思った若者が大きくなるとまたそれをやり始める。その時に使える道具は全然違うので、似たようなことをやってるつもりでも、実は全然違うものができたりします。

また、昔のSFではインターネットはほとんど出てきませんが、インターネットが登場したところでインターネットがある前のSFが古くなるかというと、古くはなりません。ファッションとかそういうジャンルは予測と外れることがあると思うんですけれども、「本質的な人の欲求」や「こういうことをやりたい」というところは、そのまま活きてくると思います。

最近すごく面白かったのが、江戸時代の未来図を紹介している資料があって。そこに江戸時代の人が思った未来の江戸人というのが描かれていて、チョンマゲがすごくとんがってるいるんですね。ファッションの傾向として髷がだんだん細くなって伸びていくとか、裾が長くなるとか。100年経ってそんなファッションはもちろん流行っていないし、そこはズレてるんです。ただ当たっているところもあって。例えば、「食べ物の旬が無くなっていろんな食べ物がどんな季節でも食べられるようになる」とか、「女性が社会で活躍するようになる」とか、「マンガを大人も読むようになる」とか、そういうのって意外と当たってるんですよ。ですので、根っこの部分や、何が綺麗かとかそういうことも含めて、変わらないこともあるんじゃないかなと。

攻殻に関しても、「自分という存在を肉体から切り離してみたい」とか「心がパッと伝わればいいな」などは、今後も思うはずなので2029年も残ると思いますよ。

 

ゴーストと身体の分離は可能


石川:「意識を肉体から切り離したい」というのは、今の技術でいうといけそうですか?

 

稲見:ゴーストと身体の分離というのは工学的には可能です。自分がどこにいるかというのが、身体の内側ではなくて、離れているロボットの内側だとか。Skypeとかそういうことではなくて、テレイグジスタンスという技術なのですが、ちゃんと人型ロボットで自分と同期して動くようなものがあって、そのロボットが取得した情報がリアルタイムに操作側に伝わってくれば自分の意識は身体の位置からロボットの位置に飛ぶんですね。

 

石川:そういうものが、もうできているんですか?

 

稲見:できてます。お台場の日本科学未来館にラボがあって体験もできますのでぜひいらしてください。いま研究者としては、身体とゴーストが分離できたとしても、それが一対一の関係ではもうつまらなくて。「複数の人が一つのロボットを動かしたらどうなるか」とか、「自分という個がネットワークで繋がれた義体に多数分散したら自分の身体感はどうなるか」を実験的に実証してみようというのが実は最新の研究テーマです。

攻殻の中で、電脳に接続するのではなくて手にデバイスをつけてタイピングを速くするというのが確か描かれていると思うんですけど、人間強化でいうとその段階。でも、神経を直接接続しなくても、自分のゴーストを飛ばすということができつつあって。一人が複数の対象を同時にどう動かすかというのが、実際の研究として各所で始めてるところです。たぶんそれがロボットや義体とかと関わってくる。それらの技術が前提となった時に、フィクションの表現はどう変わるかっていうのも面白いですけどね。

(文/砂流恵介)

 

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