「熱光学迷彩という言葉がなければ光学迷彩は実現できなかった」【特別対談】稲見昌彦×I.G 石川光久が攻殻機動隊を語る(3/4)

2015/06/26 19:45

日本を代表する企業、大学の研究開発者、公共機関など、産学官が一体となって、「攻殻機動隊」の世界をリアルに作ろうという壮大なプロジェクト「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」。いよいよ本格始動する攻殻機動隊 REALIZE PROJECTにあわせ、対談連載をスタートします。第1回目の対談は、「攻殻機動隊にヒントを得て光学迷彩を開発した」という稲見昌彦氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)と、株式会社プロダクション・アイジー 代表取締役社長 石川光久氏。
お二人の対談は、攻殻機動隊の世界の実現可能性や、原作者・士郎正宗氏についてなど多岐に渡りました。

熱光学迷彩という言葉がなければ光学迷彩は実現できなかった

石川光久氏(以下、石川):稲見先生は士郎正宗さんと話をされたことはないんですよね? 何か士郎さんに伝えたいことや質問してみたいことなどあるんですか?

 

稲見昌彦氏(以下、稲見):攻殻機動隊の伝えたいコンセプト、士郎さんは何を描きたかったのかというところでしょうか。

 

石川:攻殻機動隊で何を描きたかったか…。なんでしょうね、ダイレクトでど真ん中な質問だから、自分も今まで聞いたことはないですね。士郎さんに是非聞いてみたいと思います。

 

稲見:伝えたいことと言いますか、お礼としてお伝えいただきたいことがあります。SFで光学迷彩みたいなものはたくさんでてきたと思うんですけど、それを透明マントとか透明装甲とは言わずに、「熱光学迷彩」と名前をつけたことを技術者としてお礼を言いたいです。
私自身が攻殻機動隊が必読書だったことは前提にあるのですが、ただ攻殻を読んで光学迷彩を実現しようとなったわけではないんですね。私は、全然関係ない立体映像の研究をしていたんですけど、それがある時、「熱光学迷彩」という言葉にヒントを得て、「立体映像の技術を使えば近いものができるかもしれない」という順番で結びついたんです。それが透明と言われてたら結びつかなかったんですよ。透明と言われてしまうと「どう素材として実現するか?」という感じになってしまうんですけど、迷彩と言われるとディスプレイ技術で、要はカメレオンと同じような構造で実現できるかもしれないと。それは工学的にすごく正しいと申しましょうか。

 

石川:「攻殻機動隊」というタイトルの感じも含めて、士郎さん自身が技術的なものもわかっているから「熱光学迷彩」という言葉が出たのか、そのあたりは興味深いですよね。

稲見:私の論文には、日本語にも英語にも参考文献に「攻殻機動隊」と入っているのですが、これは技術的に本当に参考になったから入れています。

士郎さんは「熱光学迷彩」についてどういう技術かというのを細かくは言ってないですね。でも、言葉が全てを意味しています。あの言葉にすると到達するんです。それを透明と言っちゃうと違うんですよ。

研究者の間では攻殻をメタファーとして使っている

稲見:実は研究者の間では、技術を説明するためのメタファーとして攻殻を使わせてもらっています。要は「義体で…」とか言ったりすると、通じるんですよね。これは日本の研究者だけではなくて、海外の研究者にも通じたりします。理屈立てて何か現象を説明する時は、プロの研究者としては論文を書くとかやらなくてはいけないですが、自分がやりたい、やろうとしていることを簡単に伝えるには作品の中のイメージを利用させてもらった方が研究者同士でも早く伝わるというのはありますね。それは「表現の力」と申しましょうか、「映像作品化されているものの力」と申しましょうか、もう共通言語になっていますね。

 

石川:時代とともに合う形で攻殻を作り続けてきたから、攻殻の世界が広がって、新しいお客さんにも広がっているから共通言語になっているというのを思いますね。

 

アニメと研究の相互作用は日本でないとできない

稲見:攻殻ではないSFアニメの話ですが、制作者の方々が、未来のディスプレイのイメージや、ロボットの世界でどういうことをやるとリアリティーがある世界観を作れるのかみたいなことを聞きにいらっしゃったことがあって。お互いに相互作用が起きつつあると感じています。日本の色々な作品と色々な研究が混じりあって、世界の中で最先端の表現と最先端の研究が出てくる関係性が起こりつつあるので、そこは非常に興味深いところだと思っています。これは日本の強みだと思うんですよ。

 

石川:そうですね。日本人は文化でもそうだけど、上手くブレンドしますよね。

 

稲見:フランスとかイギリスで聞くと、フィクションとサイエンスを混ぜるとすごい怒られるって言うんですよ。それは両方文化としては持っているけれど、混ぜるな危険なことであって、「お互い違う職種として違う道を歩むんだ」と向こうの先生達が言われていて、日本が羨ましいと。日本はそこらへんをヒョイっと超えて、お互いを認めながら影響し合ってるところはありますよね。

 

石川:あと14年で2029年、攻殻機動隊にリアルが追いついてしまうから、フィクションのなかでサイエンスを取り扱うためには、舞台設定が100年先になっている「PSYCHO-PASS サイコパス」のほうが作りやすいとか、話が膨らみやすいっていうの出てくるかもしれません。現実的な技術の進歩と関わらない次元で、クリエイターが想像することができるので。でも、逆に「今の技術はどうですか?」って研究者に聞きに行って、それをビルドアップしてリアルな世界観を作るっていうのも面白いかもしれないと思いますね。

人間の欲求に情報欲


石川:技術の進化・進歩でいうと、一つ心配していることがあって。ちょっと変な話になるんですが、稲見先生は例えば女性にモテたいとか、名前を売りたい、富や名声、権力がほしいみたいな、人間の欲求の中で一つ選ぶとしたら何を選ばれますか?

 

稲見:たぶん研究者っていうのは、やってる研究成果が広がると嬉しいから名前なんでしょうね。自分の名前が残ることは作品が残るのと同じですから。

 

石川:実績、結果としての名声がまずあって、自分のやりたい研究がやりやすくなるというのが、一つのモチベーションというか欲求になるということですね。

何かを成し遂げる時に、欲求ってすごく大事だと思うんですよね。今の若い人たちを見ていて思うのは、金持ちになりたいとか、有名になりたい、目立ちたいとかモテたいとか、そういった人間の行動力に繋がるような欲が無くなってきているなと。人の根源的な欲求自体が薄っぺらいと、次の技術の進化や進歩に対して積極的になれるのかなって思ったりするんですよね。

 

稲見:今の話は2つあって。一つは日本特有のみんなと同じになりたい、または、みんなと同じじゃないとヒドイ目にあってしまうかもしれないという洗脳を解かないといけない。「何か新しいことをしたいということはみんなと違うようになりたい」ということなので。それは高校生までのメンタリティーのスイッチを切り替えないとダメなんですよね。みんなと同じことをしてたら食べていけませんよね。同じことをしているということは、誰か別の人に取って代わられても良いということですから。まずそこを変えて自らの道を踏み出して欲しい。
もう一つは、たぶん食べ物とかも近いかもしれなくて、本当にお腹が減ってる時はご飯をたくさん食べられればいいと思うんですけど、コンビニやファストフードに行っていつでもいくらでも食べ物があるようになると、今度は美味しいものが食べたいとか、日々変わったものを食べたいとかになりますよね。そうすると、大盛りだけで商売していたようなレストランではダメで、他と違うものを出すようになる。つまり皆がそこそこ満ち足りてハングリーではなくなった分、グルメとか創作料理とか、より繊細なものを作ろうとするようになっている可能性はあるかもしれない。それは若い人達に期待してることでもあるんです。
マイナスを0にするのは課題と目標が明確な分みんな同じことを頑張ればいいんですけど、0をプラスにするのは突然方法がたくさん増えてしまって、難しいじゃないですか。そこは逆にお腹が減ってない分、自分が本当に食べたいものは何か、美味しいと思うものは何かを突き詰めていくことで、日本の和食やラーメンが世界に広がったというのがあると思います。多様性を持って突き詰めていくことで新しい作品が生まれればいいと思っています。

 

石川:味についてなんですが、「ここのラーメン屋が美味いから行く」っていう動機があると思うんですけど、でもお客さんの50%以上はそのお店の味だけじゃなくて、店の立地だったり店内環境だったり、接客とかコミニケーションだったりっていう複合的な要素で訪れてる、みたいなところありませんか? 人間って味だけを求めてるわけじゃなくて、付加価値というか、外部要因も含めたものをトータル的に感じながら、味の優劣を決めているような気がしてならないんですよね。

情報を食べる

稲見:正に『ラーメン発見伝』というラーメンマンガにあったんですけど、その中で「人は味じゃなくて情報を食べてる」っていう言い方をしてるんです。まあ、味というのも情報の一つと言えるのですが、それは別にラーメンに限った話じゃなくて、我々人間は必須栄養素だけではなくて情報を食べ続けないと生きてないような生物だったんだという風に考えてみる。例えば、誰かと話したりネットとかで常に情報を収集しないと不安になっしまうように。人の根本欲求の一つとしてきっと情報欲というのを定義すると、上手く説明できるんじゃないかと。なんか話がズレましたね。
(文/砂流恵介)

 

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