「リスペクト無くして攻殻機動隊 REALIZE PROJECTはない」【特別対談】稲見昌彦×I.G 石川光久が攻殻機動隊を語る(4/4)

2015/06/26 19:46


日本を代表する企業、大学の研究開発者、公共機関など、産学官が一体となって、「攻殻機動隊」の世界をリアルに作ろうという壮大なプロジェクト「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」。いよいよ本格始動する攻殻機動隊 REALIZE PROJECTにあわせ、対談連載をスタートします。第1回目の対談は、「攻殻機動隊にヒントを得て光学迷彩を開発した」という稲見昌彦氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)と、株式会社プロダクション・アイジー 代表取締役社長 石川光久氏。

お二人の対談は、攻殻機動隊の世界の実現可能性や、原作者・士郎正宗氏についてなど多岐に渡りました。

 

攻殻を作り続けられる理由

石川光久氏(以下、石川):攻殻機動隊という作品がこれだけ長く続いたのは、士郎正宗さんの描かれた原作が持つ根っこの強度というか、SFを見る目というか、作品に触れた人を説得するだけの力があるからだと思うんです。きっと攻殻はこれから50年、100年という時間がたっても思想として残るものだと思いますし、2029年が近づけは近づくほど、「士郎さん凄えなぁ」っていう、怖さにも似た畏敬の念を感じています。
それと、士郎さんの人間性なんですよね。攻殻機動隊を映像にする時に士郎さんがこれやっちゃダメ、あれやっちゃダメっていうように映像制作側の希望やアイデアを抑えてしまっていたら、映画もテレビの存続もなかったと思うんです。士郎さんという人間の懐の深さがあって、新しい攻殻が生み出せているんです。攻殻に携わってきて、これだけ長く作り続けることができているのはそこかなって思っているんですよね。
あとは、お客さんがいてくれるから。監督は、お客さんが観たいものを理解し演出ができる人が望ましいと思ってます。それができる監督が選ばれます。ただ単に攻殻をやりたいだけの監督が作っちゃうと、攻殻機動隊の世界観自体が壊れちゃうと思うんです。
でも、お客さんが観たいものを作るといっても、お客さんの思い通りだと、今度は作品が劣化しちゃうんですね。予定調和的にこじんまり作るんではなく、無謀でも未来に風穴をあけるというか、それくらいの企画にしないと攻殻が持ってる強度に映像として耐えれないと常に思っています。

 

REALIZE PROJECTの2つの方向性


稲見昌彦氏(以下、稲見):観客が観たいことを形にするっていうのは、研究も同じだと思うんですね。観たいものを聞いても出てこないですよね、観終わった後に「こういうのを観たかった」という風に思わせた時に、「やった」となる。それは、「現在のニーズを実現するのではなくて未来のニーズを形にして出してあげる」というのが大切かもしれないと思ってます。
REALIZE PROJECTも2つ方向性があると思ってまして、一つは「今の技術ではまだ実現できない攻殻の技術を実現していきましょう」というもの。もう一つは逆に、「攻殻の世界の中で描かれてなかったとしても、もしかしたらその世界観の中でこういうのがあると『確かにこれは攻殻的だ』となる、攻殻の世界を広げるもの」の2つです。寄り添うのではなくて、士郎さんに近づいていくものと、お互いに影響を及ぼすような。それが本当の未来になっていく。もしかしたら次の攻殻に出てくるかもしれない、そういうものができると面白いと思います。

 

石川:未来だった2029年が近づいてきて、リアルな時間軸で見えている技術を誠実に正確にトレースするだけだと、枠にはまって堅苦しくなってしまう。そうじゃなくて、攻殻機動隊の持つ根っこの面白さに対して飢えてる連中を集めて、今まで蓄積した技術や映像表現で人間の心を揺さぶる未来を描いて欲しいんです。未来を描くためには、今を目一杯頑張っている人間じゃないとだめなんですよ。どんな研究にしたって、頭で考えたって、今に一生懸命でないと未来なんか全然見えてこないっていうことなんですよね。

 

稲見:そうですね、今あるもので何ができるか、何ができていないかを言えることが実は専門家の条件の一つなんですよ。そこまでわかった時に地平線が見えて、これを乗り越えるにはどうしたらいいかっていうのを考えるのが我々研究者の仕事です。そのためには「今は何かっていうところ」をみんなで調べるのが大切だと思います。今がわかってる人達が未来へ踏み出していくことが、技術とイマジネーションとの螺旋階段を登ることになるんじゃないですかね。何かREALIZE PROJECTって一方向じゃなくて、技術とイマジネーションが相互作用的に我々が『未来の攻殻』をリアライズするのかもしれませんし、攻殻の世界を現実にもっていくのと2つの流れがあると非常に面白い取組になりそうです。

 

リスペクト無くしてREALIZE PROJECTはない


石川:アニメーション製作会社として、プロデューサーとしてのミッションは、現実が2029年という時を越えてしまっても攻殻が劣化しないように、より時代に合ったものをいかに作り続けられるか、という事だと思います。2029年になる頃には、もしかしたらプロデューサーを誰かにバトンタッチをしているかもしれないけど、この気持ちは引き継いで欲しいなと思っています。REALIZE PROJECTもそういう気持ちで取り組んでもらいたい。上辺だけの技術だけじゃなくて、作品の魂の部分まで。
夢を現実にするっていうのは、大人の云々かんぬんばかりを頭に入れた人間ではできないと思うんですよ。そういうことばかりを考えている経営者とかプロデューサーだったら、攻殻機動隊は作れない。攻殻機動隊を生み出した士郎正宗さんへのリスペクトや、攻殻機動隊の強度に耐えれる人間的な強さが必要です。攻殻機動隊って、難題というか、重たいんですよ。だからこそ、それを超えようと思える魅力があるんですよね。ということをアニメーションを作りながらいつも思っています。それ無くして未来の攻殻ってないんじゃないかなって、常に思いますね。

 

稲見:リスペクト無くしてはないと思います。

 

石川:そこなんですよ。

 

稲見:引用の本質はリスペクトなので。研究にしても何にしても、先人がやったことを無かったことにするのではなくて、むしろリスペクトした上で自分は何をするのかという。その辺りはマナーとしてやっていきたいと思います。また、REALIZE PROJECTで攻殻の世界を作りたいと思って集まってきた技術が、日常の全く違うことに使えるという副作用にも期待したいと思います。
それこそ宇宙に行きたいと研究していたNASAの技術がぜんぜん違う分野に使われるみたいな形で、「攻殻を作りたい」と目指した中の派生が全然違った分野に使われるのは面白い未来になると思うんで期待したいですね。ですから、作品へのリスペクトと技術的な派生の二点がREALIZE PROJECTの重要なポイントかもしれない。

 

石川:何でも同じかもしれないけど、根っこが大地にしっかり張って、水や栄養を吸わないとなかなか育っていかない。目標を超えたものを作りたいという欲求が出てきた時こそ、次に進めるんですよね。士郎さん、そして原作としての攻殻機動隊へのリスペクトは常に根っこに持ち続けています。
REALIZE PROJECTは、攻殻機動隊という未来像を目指して集まってきた人や技術が変な方へ進まないように、間違った方に行かないように、道標になってくれれば良いなと、それが一番大事じゃないかと思うんですよね。
(文/砂流恵介)
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