バーチャル世界で触覚をつくる!筑波大 岩田洋夫教授が語るハプティックスの最先端

2015/10/25 09:49

攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 岩田洋夫 前編

視覚や聴覚に訴かけるバーチャルリアリティ技術はOculusやGoogle Cardboardなどで一般層に身近な存在となってきた。今後、バーチャルリアリティを完成形に近づけるためには人間の「触覚」の部分に訴えかけていかなければならない。筑波大学大学院システム情報工学研究科教授の岩田洋夫(いわた ひろお)先生は30年来「ハプティックス」すなわち触力覚の研究に取り組んできた。バーチャル世界における触覚提示技術の最先端を行く岩田先生の研究を砂流恵介が訪ねた。

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バーチャルの世界で手ごたえや歩行感覚をつくる「ハプティックス」

 

砂流:
岩田先生はどのような研究をされているのでしょうか?

 

岩田:
一言でいうと「触覚」の研究をしています。バーチャルの世界で「触れた感覚」をつくろうとしているのですが、30年前に研究をはじめた時はほとんど不可能な技術でした。90年代には既に存在していたHMDが最近になってようやく普及してきて、バーチャルで視覚や聴覚に訴えることは容易にできるようなったのですが、触覚に関しては現時点でも全然十分じゃないんです。バーチャルの映像に触れたら、その部分から手ごたえを返してくれるロボットが必要で、それをどうつくればいいかを長年研究しています。

 

 

岩田:
「手ごたえ」を作る以外にも、「歩く感覚」を作ることにも取り組んでいます。人間は自分の足で移動することで見える世界が変化し、身体と環境の関係で「外部」を認識します。でも、人間の歩く感覚・移動する感覚はとても複雑なんです。人間って何をするかわからないでしょう。それにあわせて自由に歩き回る感覚を作るのがとても大変で。部屋の中でも歩き続けることができるように、歩き回る人を本人が気付かないうちに元の位置に戻す「動く床」といった装置も開発していたりします。

 

砂流:
最近の研究で特に力をいれていることはなんでしょうか?

 

岩田:
「エンパワースタジオ」というバーチャルリアリティの様々な実験ができる学生のための設備をつくっています。まだ開発途中ですが、「Big Robot」という人間の身長を何倍かにしたときにどのような感覚を得えるかを調べるための搭乗型巨大ロボットも置いてあります。世界最大級のVRシステム「Large Space」も目玉の一つですね。壁と床、全周がスクリーンになっている幅25m、奥行15m、高さ8mの空間があるんです。HMDだとバーチャルの世界を一人でしか体験できませんが、この装置を使えば複数人で同時にバーチャルの世界を体験できます。7本のワイヤーで被験者を支えて、空間内を鳥のように自由に飛べるような仕掛けも実装していきます。この設備は既にJAXAの方も注目されていて、月面歩行の仮想体験も構想しています。

 

人間の感覚をつくろうと思ったら十分な「場所」を確保することが大事だという。特に「Big Robot」は大きさが5mもあり、格納庫を確保するだけでも大変なこと。この大きさの格納庫が完備された施設を構えることができる研究者は世界中でもそう多くはない。

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明確なゴール像が存在しない「触覚インタフェース」

 

砂流:
先生が30年前に「触覚」を研究テーマとしたきっかけは何だったのでしょうか?

 

岩田:
学生だった頃は、人と機械のインタラクションに興味があったんです。その当時「ロボット」といったら人間の代わりに何かをすること、役割を持つことが期待されていました。ならば今後、人間と共調したり、人間そのものを拡張するようなシステムが当然必要になってくるだろうと思っていましたね。その点、攻殻機動隊はリアルの世界とバーチャルの世界が連携して描かれているのが非常に日本的で面白いと思います。マトリックスが良い例ですが、欧米ではバーチャルの世界に「敵」が居ると描かれることが多いですから。

 

砂流:
研究内容に攻殻機動隊や他のSF作品の影響を受けていたりするのでしょうか?

 

岩田:
実は触覚情報が出てくるようなSF作品は私が知り得る限り存在しないんですよ。ジェスチャー入力はよく描かれますし、ロボットの分野では鉄腕アトムのような明確なゴール像がありますが、ハプティックス・触覚の分野では明確な完成形が描かれたていないんです。「ゴールが見えないこと」それが私の研究の難しいところでもあるし面白いところですね。

 

砂流:
では、何にインスピレーションを受けてきたのでしょうか?

 

岩田:
考えるよりも先に「モノを作る」のが流儀なんです。「触覚」のインタフェースも突き詰めて考えてしまうと「これは不可能である」という結論で終わってしまう…。だから、何でもいいから動くものを作ってみて、操作をしていると、そこからいろんな可能性や発想が湧いてくるんです。そこで次のステップに進む。私の研究はゴールを決めて順番に積み上げるよりも、わからないゴールに向かって試行錯誤するスタイルですね。

 

岩田先生は外部からのインスピレーションでものづくりをするのではなく、まず手を動かしてその過程の中で、新しい発想や着眼点を探していくそうだ。SF作品からの直接的な影響はないものの、バーチャルとリアルが共存する攻殻機動隊の世界観には一目置いている。そんな岩田先生が見据える2029年とは?

 

情報端末と自動車が融合する2029年

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砂流:
攻殻機動隊の2029年はどのような世界になっていると思いますか?

 

岩田:
触覚を再現するのはかなり複雑な作業ですので、バーチャルの世界にジャックインするのは難しいと思います。ですが、タチコマのような乗り物は実現している可能性は高いのではないでしょうか? 私が2006年につくった「メディアビークル」という装置がそれに近いかもしれません。メディアビークルは内側がスクリーンになっていて、別世界の映像を体験しながら移動をすることができます。自動車と情報端末が合体したものは必ず出てくると思いますね。

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メディアビークルは現在2号目の試作機であり、簡易的な走行と搭乗者に加速度を体感させることが可能であるという。

 

「触覚技術」は解明されていていないことが多い分、研究領域としてのポテンシャルを存分に秘めており、攻殻機動隊の世界を実現させていく醍醐味といえる分野ではないだろうか。岩田先生は今後どのような発明を生み出していくのか。後編に続く。