研究者がアート活動をする意義「触覚」の第一人者 岩田洋夫教授が説く「魅せ方力」

2015/11/05 17:39

攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 岩田洋夫 後編

筑波大学大学院システム情報工学研究科教授の岩田洋夫(いわた ひろお)先生はバーチャル世界において触覚や歩行感覚をつくる「ハプティックス」の研究を約30年間続けている第一人者だ。その主な研究成果としては、別世界の映像を体験しながら移動をすることができる乗り物「メディアビークル」、人間が巨人になった時の感覚を体感することができる「Big Robot」、壁と床、全周がスクリーンになっている世界最大級のVRシステム「Large Space」などがある。

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そんな岩田先生は研究に加えて、メディアアート・デバイスアートの分野で国内外の数々の展覧会・芸術祭に出品し、著名な賞を受賞している。主な実績としてはSIGGRAPHのEmerging Technologiesに1994年より14年間続けて入選、Prix Ars Electronica 1996と2001においてインタラクティブアート部門honorary mentions受賞、2001年文化庁メディア芸術祭優秀賞などがある。

 

岩田先生がこうしたアート活動は研究のために必要なことだという。その意図を砂流恵介が訪ねた。

 

芸術祭は研究者と世間との接点になる大事な機会

砂流:
先生は様々なアート活動をされていますが、それは研究とは何か関係があるのでしょうか?

 

岩田:
私はずっと触覚の研究をしていますが、その成果である「触覚」のインタフェースは、実際に人に体験してもらわないと意味が無いんです。いくら論文書いても通じないんですよ。私の研究の本質はやっぱり「体験」なんですよね。いろんな人に研究の世界を「体験」してもらって、そこから新しい学びやフィードバックを得て、さらにその次の研究に生かしていく。そういうことができるのって、学会ではなく芸術祭なんですよ。

 

デジタルアートの権威ある祭典の一つである「Ars Electronica」にて90年代後半、岩田先生をはじめとした多くの日本人受賞者が生まれたことがきっかけで、2000年以降に工学系の研究者が続々と芸術活動を行うようになったという。

 

岩田:
今の時点で触覚技術・ハプティックスを普及させる唯一の手段が芸術祭です。通常、大学が研究成果を世の中に出すには、まず特許を取って、実施企業を見つけなくてはいけない。世の中との接点が作りづらいんです。それに加えて、特にハプティックスは企業から見たら消費者のニーズが無い技術だとみなされてしまうんです。そうなると、科学館のような場所で研究段階のものを一般の人に見せるということが非常に意味を持ってくる。従来の科学館の展示でも実験段階の装置が出展されるというのはありえなかったのですが、私が2008年に日本科学未来館に「デバイスアート・ギャラリー」を開設して、実験段階の技術を体験してもらう展示をつくったのはブレークスルーだったと思います。

 

科学館などでは長い時には数か月に渡って展示を続けなくてはいけない。その間、老若男女問わず多く人が展示されている装置に触れるので、それに耐えうる壊れない設計でアウトプットを出さなくてはいけない。研究開発途上のものを形にしていくことそれ自体がかなりの挑戦でありながらも、重要な実演発表の場になる。

 

テクノロジーで変わりつつある研究者の発信方法

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世の中との接点を確保するために研究成果をアートとして発信する以外にも、新しい潮流が見え始めているとも言う。

 

砂流:
最先端の研究を世の中に普及させ、攻殻機動隊の世界を実現させていくためには企業の力は必要だと思うのですが、企業とはもっと上手く組めないのでしょうか?

 

岩田:
従来の日本企業のやり方だと、消費者のニーズが見えないところに研究開発はしないんです。ポテンシャルがある研究は世の中にたくさんありますけど、その研究が革新的であればあるほどニーズは見えないんですよね。大学の研究成果を実用化や企業化していくことは今のスキームでは難しいんですよね。

 

岩田:
ただ、少し時代が変わってきたと思うところがありますね。最近は、クラウドファンディングに期待しているところがあります。私は歩行感覚をつくる機会の研究をずっとやってきましたが、最近になって似たようなプロダクトがキックスターターでてくるようになったんですよね。そういう意味では、世の中との接点も以前よりは持ちやすくなったのかなと。

 

これからの研究者に必要なのは「魅せ方力」

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岩田先生が教鞭を取る筑波大学「エンパワーメント情報学プログラム」では、人材育成目標として「分断横断力」「現場力」「魅せ方力」の3つをあげている。この3つの中でも、岩田先生は、自身のアート活動から日本の研究者には「魅せ方力」が不足していると指摘する。展示を通じて研究を洗練させていく。筑波大学は総合大学では珍しい「芸術学部」を有する学部であり、岩田先生自身も「工学」と「芸術」の連携を推進してきた。

 

攻殻機動隊の世界を実現していくような先端研究は企業からしてみればすぐに扱えるものではないのかもしれないが、それを「アート」として世間に打ち出し、人々が実際に体験する中で得る学びを糧にさらに研究を鋭利なものしていく。メディアアートやデバイスアートの展示の見方を少し変えてみたはいかがだろうか。