インプラントの実現は「体内の見える化」から!塚本昌彦が語る2029年への視座(前編)

2015/10/02 13:19

攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 塚本昌彦

2001年から現在に至るまで、14年間ほぼ1日中ウェアラブルデバイスを装着して生活している大学教授がいる。「ウェアラブルのえらいひと」こと神戸大学大学院工学研究科教授の塚本昌彦(つかもと まさひこ)先生だ。

 

ウェアラブルデバイスを自分の体の一部のように使いこなすことが当たり前の世界は2029年を待たずして、もっと早い時期にやってくる。2029年にはウェアラブルの時代を超えてさらに次の大きな変革があると主張する。未来の生活を先取りしているとも言える塚本先生に、なぜウェアラブルという領域に没頭して研究しているのか、そしてこれからの研究で何を成し遂げようとしているのか、攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 編集長、砂流恵介が訪ねた。

1-1

 

 

きっかけはインベーダーゲーム

 

砂流:

まず先生の研究内容を教えていただいてもよいでしょうか?

 

塚本:

ウェアラブルとユビキタスを主な研究テーマとしています。私の研究自体が攻殻機動隊のREALIZEとも言えますね。スマートフォンやモバイルを見てわかる通り、コンピューターって小さくなれば使い方が変わるじゃないですか。より小さくなったコンピューターを人や物に埋め込んで使うにはどうすればよいかを20年くらい前から考えてきました。最近になってIoTやウェアラブルという言葉が注目されて、ようやく時代が私に追い付いてきたなと感じます。特に私は「実世界」でのコンピュータの使い方を探るということに重点を置いていますね。

 

砂流:

先生が今から20年前にウェアラブルに興味をもったきっかけは何だったのでしょうか?

 

塚本:

もともとは40年ぐらい前の中学生のときに喫茶店に置いてあったインベーダーゲームに衝撃を受けたんですよ。その時に一番身近なコンピューターといったら簡単な計算ができる電卓くらいでしたからね。「こんな複雑なインベーダーゲームを理解するコンピューターはすごい!」って思ったんです。そこから高校に入って、カシオの関数電卓を使っていろんなプログラムを組んで友達に見せびらかすのが楽しくなっていった。関数電卓だから電車の中でも楽しめますし、何より、プログラミングを丁寧に積み上げていけばいろんなことが実現できることがわかったんですよね。それがコンピューターやモバイル、人工知能に興味を持ったきっかけです。その後、大学では数理工学、大学院で人工知能を勉強して、卒業後にはシャープに入社しました。当時の上司が小型コンピューターにロマンを感じている人だったこともあって、部署としてモバイルの領域に攻め込んでいきました。その自然な延長上にウェアラブルやユビキタスがあったというわけです。

 

1-2

砂流:

攻殻機動隊や他のSF作品にも影響を受けていたりしますか?

 

塚本:

ええ。攻殻機動隊はもちろんなんですけど、小さい頃に見ていたウルトラマン・ウルトラセブンとか仮面ライダーとかの変身ものの影響を受けてますね。よく考えたらめがねとかベルトとかのウェアラブルが登場しているじゃないですか。攻殻機動隊を見たのは社会人になってからのことですね。

 

究極的には攻殻機動隊の世界を目指す

 

塚本先生は学生時代、非常の好奇心旺盛な学生だったという。文化部と運動部の兼部が義務付けられる学校に通い、テニス部では基礎練が好きでのめり込む一方で美術部に所属し、迷路やイラストを描くことにハマっていたという。高校の文化祭のテーマソングを自身で作詞作曲するほど音楽活動も精を出していた。ウェアラブルは人間の能力を拡張するものだが、その拡張した先にある世界を見てみたい、もっと多くのことが出来るようになりたい。「好奇心」が塚本先生を突き動かす力となっているようだ。そんな塚本先生の好奇心の究極的な矛先には「攻殻機動隊」があるという。

 

塚本:

私は究極的には攻殻機動隊の世界を目指していますよ。今の義手や義足を見ていると人間の進化を感じますよね。健常者も使えるようになればいいなと思うんですよ。手が3本も4本もあればチンドン屋みたいにいろんな楽器が同時に演奏できたりするじゃないですか。そうなったら面白いですよね。

1-3

 

そして塚本先生は身体能力の拡張だけでなく、「電脳化」の実現にも触れる。

 

塚本:

あと、私は10年以内には脳に電極を差し込みたいとも思っているんです。歳を取って認知症になるかもしれない。記憶素子を脳に埋め込めばたぶん解決できますよね。体内に機器を埋め込むのは抵抗がありますが、あと5年~10年でその道筋が見えてくると思うんですよね。義手や義足に神経を繋ぐ研究やうつやアルツハイマーの治療に脳に電極をさす治療はもうあるじゃないですか。脳の専門家の方々は指を動かすのとは細かさと量が違うから短期間では実現は無理だって言いますけど、小さくしてそれを繋ぐメカニズムと技術については電気電子工学の技術発展の感覚としてはもっとすぐにできそうな気がするので、それに向けてこれから10年やっていきたいですね。私はこれまで脳科学や医学は専門外でしたけど、これから勉強していきたい。

 

ウェアラブルとインプラントは違う

 

砂流:

2029年に向けてウェアラブルデバイスはどうなっていくと思いますか?

 

塚本:

私がよく言うのはウェアラブルとインプラント(体内埋め込み)は違うぞ、ということです。

だいぶ特性が違いますよ。ウェアラブルは身体の上に装着するので、毎日取り換えることもできますし、若い人がこぞってファッションアイテムとして着けることができるというポテンシャルも持っています。でもね、インプラントだと外から見えないんですよ。インプラントはユーザの精神的なハードルも高いんですよね。

 

ウェアラブルは数年で世の中に広く浸透すると思います。それと同時に、技術的にインプラントが進化し、そちらのほうは徐々に立ち上がっていくのでは。インプラントは、身体の内側を「見えるようにすること」に特にニーズがあるんじゃないかと思いますね。特に内臓とか、見えないからこそ問題になっている部分があって、それが見えるようになることで人間の寿命はもっと延びるかもしれません。さらに先には、マイクロロボット、ナノボットとかを注射で体内に入れてセンシングするとか、脳に入り込んで直接知能を強化するとか、そういうことが10年〜20年といったスパンで実現できるようになってくればいいですよね。

 

 

インベーダーゲームや変身ヒーローを起点として始まった塚本先生の「ウェアラブル」への探求心。攻殻機動隊の世界を自身の研究が目指す姿と捉え、2029年に向けて身体の外側に装着するウェアラブルの持つ可能性から、身体の内側に埋め込むインプラントが実現される道筋までを語ってもらった。身体の内側を見える化することで、インプラントがウェアラブルに近いものとして扱われる世界はすぐそこまで来ているのかもしれない。

 

塚本先生インタビュー後編では、14年間ウェアラブルデバイスを使用して築いた発見、加速度的に進化するテクノロジーに対して人類が持つべき視座についてお話をいただく。

 

(文章/石塚たけろう)